大泉町 大野恭子さん
2年前に完全移住
大野さん夫妻の場合、奥さんの恭子さんは2年前から完全移住を始めたが、ご主人はまだ週末だけの八ヶ岳暮らしだ。夫婦どちらかが完全移住で片方が行ったり来たりという移住形態が違うご夫婦は、八ヶ岳には意外と多い。
2年前、大野さんのお引っ越し当日は、なんと記録的な大雪の日だった。さすがに引っ越しそのものは延期となったが、一人でこちらにいて、身動きできない状況に陥ってしまった。
「メインの道から少し入ったところに家があるので、何日たっても除雪車が来てくれなかったんです。幸いお隣りの家の方もこちらにいらしたので、協力して雪かきをし、一番近いスーパーまで歩いて買い物に行って、何とかしのぎました」
車は雪をすっぽりかぶり、一週間ほど家に缶詰状態という、スタートからたいへんな思いをしたのだ。そのおかげでもう怖いものはない。田舎暮らしの貴重な体験をしたと、今となっては笑い話だ。
今も週一回ほどは東京に用事があって出かけるが、「東京は人が多すぎて、歩いていると人にぶつかったりして落ち着かないので、行ってもすぐに飛び帰ってきます」と、心から八ヶ岳の土地をお好きなのがよくわかる。
予防医学としての癒し
実は大野さんは、これまで2度の大病を患っている。そのため、身体に大切なのは食と心の癒しだということを、身を持って感じている。
「20年前、忙しすぎる生活が災いしたのか乳がんを患い、手術しました。心と病気は関係あるのだろうと漠然と思っていたら、6年後に再発してしまったんです。おかげさまで今は回復し、元気になりました。生かされているなと、日々、感じています」
健康を取り戻し、エネルギッシュな毎日を送ることができるのも、東京での慌ただしい生活のなか、たとえ週末だけ、たとえ半日だけでも、八ヶ岳に来て豊かな自然のなかに身を置けば、心が癒されることを実感したから。
八ヶ岳移住を果たし、大野さん自らが感じたことを一人でも多くの人に味わって欲しい。人に癒しを与えたいと考えて、リフレソロジー(足つぼマッサージ)の勉強をして資格をとった。ご主人も整体師の資格を持ち、夫婦二人で整体とリフレソロジーの施術をし、疲れた人の心身を癒す仕事をここ八ヶ岳でスタートさせている。
楽しみながら農作業を
もちろん大野さんにとって、無農薬、無肥料の体にいい新鮮な野菜を自ら作ることも、なくてはならない仕事だ。畑仲間と共に汗水流しての農作業は楽しいが、雑草抜きはひと苦労で、「夏は1週間留守しただけで1メートル位伸びてしまうので、気が抜けません」。
東京の友人たちも、農業体験をしたくて大野さんの畑にやって来る。農作業を2~3時間体験し、近隣の美味しいお店でランチをするなど、無理をしないで楽しみながら八ヶ岳の良さを味わってもらうというスタイルだ。一つ一つが試行錯誤の連続で、まだ完成形ではない進行形の段階だというが、大野さん夫妻を中心に、確実に人の輪が広がっている。
農業と癒しの施術の両立は、いわば半農半Xを実践しているといえるだろう。それは新しい生き方の見本のように思えた。