八ヶ岳もついに年内初の雪。
朝起きると庭はすっかり雪景色になっていました。
といっても、気持ち数センチだけ積もっただけで、道路は一切雪もなく、おそらく今日の太陽によってお昼には雪は消えてしまうことかと思います。
大人は思わずストーブに火を入れて、寒い朝をぬくぬく室内で過ごしていると、子供と犬は起きて早々、真っ先に雪遊びに飛び出して行きました。
朝ごはんも食べずに、1人黙々とわずかな雪でも楽しみを見つけて遊ぶ子供。
ついつい大人は、雪が降ると美しい景色や綺麗な空気を喜びつつも、心はどこか
「寒いなー」
「車での移動大丈夫かな」
とか、余計な心配や不安もよぎってしまいます。
いつからか、童心よりも頭で考える癖がついてしまったのか、子供と過ごすことで学ぶことは多々ありそうです。
こんな雪景色の寒い季節がやってくると、ふとイソップ物語の童話「アリとキリギリス」を思い出します。
夏のある日、キリギリスが野原で歌を歌っていると、アリたちがぞろぞろ歩いてきました。
「おい、アリくんたち。そんなに汗をびっしょりかいて、何をしてるんだい?」
「これはキリギリスさん、わたしたちは食べ物を運んでいるんですよ」「ふーん。だけど、ここには食べ物がいっぱいあるじゃないか。
どうして、いちいち家に食べ物を運ぶんだい。
おれみたいに、お腹が空いたらその辺にある食べ物を食べて、あとは楽しく歌を歌ったり、遊んだりしていればいいじゃないか」「でもね。キリギリスさん。
今は夏だから食べ物がたくさんあるけど、冬が来たら、ここも食べ物はなくなってしまいますよ。
今のうちにたくさんの食べ物を集めておかないと、あとで困りますよ」アリたちがそう言うと、キリギリスはバカにした様に、
「ハハハハハハッ」
と、笑って。
「まだ夏が始まったばかり。冬の事は冬が来てから考えればいいのさ」
そう答えると、また歌を歌い始めました。さて、それからも毎日キリギリスは陽気に歌って暮らし、アリたちはせっせと家に食べ物を運びました。
やがて夏が終わり、秋が来ました。
キリギリスは、ますます陽気に歌を歌っています。そしてとうとう、寒い寒い冬がやって来ました。
野原の草はすっかり枯れ果て、キリギリスの食べ物は1つもなくなってしまいました。
「ああ、お腹が空いたな。
困ったな。
どこかに食べ物はないかなあ。
・・・あっ、そうだ。
アリくんたちが、食べ物をたくさん集めていたっけ。
よし、アリくんたちに何か食べさせてもらおう」キリギリスは急いでアリの家にやって来ましたが、アリは家の中から、
「だから、食べ物がたくさんある夏の間に食べ物を集めておきなさいと言ったでしょう。
家には家族分の食べ物しかないから、悪いけど、キリギリスさんにはあげる事が出来ません」と、言って、玄関を開けてくれませんでした。
キリギリスは雪の降る野原の真ん中で、寒さに震えながらしょんぼりしていました。
今、楽をしているなまけ者は、そのうち痛い目にあうというお話しです。
子供の頃、この物語を聞いて
「そりゃ、キリギリスは自業自得だし、アリの生き方が正しいでしょ」
と思ってましたが、今になって、このアリとキリギリスを読むと、なんだかどちらが正しいのか疑問に感じます。
というのも、八ヶ岳にいると、みんなキリギリスのように自由気ままに、その日暮らしの人もたくさんいるからです。
もちろん自給自足や備蓄、そういった観点から見れば八ヶ岳の人の方が、都会の人よりもアリっぽい生き方かもしれませんが、「働きアリ」という視点で見れば、アリは資本主義経済で自由を奪われ、生きるために必死に働かせられている大多数のサラリーマンを象徴しているのかもしれません。
食べ物にはありつけなかったかもしれませんが、冬がやってくるまでのキリギリスは、毎日がハッピーで、自分らしく生きて、本当に幸せだったことでしょう。
だからといって、アリが不幸であったかといえば、アリはアリで、そうやってチマチマ備蓄して備えることに幸せを感じるタイプであるとしたら、それはそれで冬がくる前の苦労も幸せだったのかもしれません。
最後が、アリだけのハッピーエンドで終わっているから違和感があり、これで冬はお互いの得意分野を分け合って双方助け合っているクライマックスだったら、どっちが正しいとかなく、誰もが得意分野があり、それを淡々とやっていれば、すべてが循環して皆が幸せになれるという、もっと素晴らしいストーリーになるのに・・・と思いました。
実際、現代版のアリとキリギリスは、冬にアリがキリギリスに食料を分け与え、お礼にキリギリスが歌を歌ったりと、まさに理想的な未来の循環社会に書き換えられたパターンもあるようです。
アリとキリギリス。個性や得意分野はそれぞれ。
これからの時代は、それぞれの大好きなこと、得意なことの一品持ち寄りによって循環する社会。
八ヶ岳では、そんなコミュニティーを目指していきたいと思います。